東京地方裁判所 昭和32年(行)95号 判決 1958年2月26日
原告 村松勝太郎
被告 国
主文
本件訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「一、被告は原告に対し、昭和七年十二月二十八日浜松区裁判所が別紙目録記載の不動産および動産(以下本件物件という)に対してした競落許可決定は法律上無効として取消をせよ、二、被告は原告に対し、昭和八年四月六日浜松区裁判所執達吏が作成した物件引渡調書は法律上無効として取消をせよ、三、訴訟費用は被告の負担とする」との趣旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
原告は、昭和七年一月二十八日当時の浜松区裁判所から、同裁判所昭和五年(ぬ)第三四三号不動産競売事件(以下本件競売事件という)の競売物件である本件につき競落許可の決定をうけた。そして、同年十月五日不動産登記法第一四八条の手続を了し、同裁判所から競落許可決定登記済書が交付されて競売法第二条第一項、第二項の規定する所有権および抵当権消滅が確定し、本件競売事件は終結した。
然るに、その後昭和七年十一月十四日付決定で、当時の浜松区裁判所は本件競売事件につき同裁判所が昭和五年十二月二十三日にした競売手続開始決定中競売物件である工場抵当法第三条による目録物件(本件物件である)の表示を更正して競売手続を進行し、かつ昭和七年十二月二十八日訴外田中信太郎に対して、すでに原告の所有となつた本件物件につき競落許可決定をした。そして同訴外人は浜松区裁判所に対し引渡命令を求めてこれを得、同裁判所執達吏小林操にこれが執行を委任し、同執達吏は昭和八年四月六日原告方に出張し、原告の所有に帰した本件物件を訴外富永郡平の占有物として全部田中信太郎に交付せしめてその旨物件引渡調書を作成した。
もつとも原告に対する競落許可決定書には物件の表示として抵当工場の記載しかないけれども、工場内に備えつけられている機械類は工場とともに一体をなしているのであることは工場抵当法第三条、民法第八十七条、第二百四十二条および第三百七十条の規定から明らかであるから、本件物件については二重に競売がなされたことになる。
右の次第であるから、本件物件につき田中信太郎に対してなされた前記競落許可決定は競売法第二条、第三十三条、不動産登記法第百四十八条により同法第六条、第七条の定めるとおり昭和七年一月二十八日原告に対してなされた競落許可決定に対抗することができないのであるから、前記のような判決を求めるため本訴に及んだ。被告指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
理由
一、まず本件訴の適否について順次判断する。
(一) 競落許可決定の取消を求める部分について。
いわゆる不動産の任意競売手続における競落許可決定に対する不服の申立は、競売法第三十二条、民事訴訟法第六百八十条、第六百八十一条、第四百十三条の定めるところにより裁判所に対してこれをなすべく、右決定はその当否を裁判所が判断するのであつて、明らかに行政事件訴訟特例法第一条にいう行政庁の処分に該当せず、被告国は、原告が求めるような、裁判所のした競売許可決定を無効としもしくはこれを取り消す何らの権限を有しない(右決定をした浜松区裁判所の裁判官が国の官吏であるからといつて、そのことから当然に国が裁判所のした裁判を無効としもしくはこれを取り消し得る理由はない。)。
他に、国を被告として原告の求めるような判決をすることができる根拠については首肯するに足りる原告の主張がない。よつてこの部分は不適法として却下を免れない。
(二) 物件引渡調書の取消を求める部分について。
(イ) 原告の求める意味が、原告の主張する物件引渡調書の記載そのものを抹消することを被告に求めるというのであれば、被告は右調書の記載を抹消すべき何らの権限もしくは義務を有するものではないから、その主張自体不適法である。
(ロ) もし、原告が、民事訴訟法第二百二十五条によつて物件引渡調書の真否について判断を求めるというのであれば、同条にいわゆる「書面の真否」とは、当該書面がその作成名義人の意思に基いて作成されたかどうかを意味するのであるから、その書面の記載内容が真実に合するかどうかは別個の問題であるところ、原告は右引渡調書がその作成名義人である浜松区裁判所執達吏小林操によりその資格において作成されたものであることをみずから主張するものである以上、かゝる請求もまた結局、不適法であるといわざるを得ない。
(ハ) もし、又、引渡命令に基き本件物件についてした執達吏の執行処分が違法であるから、その処分の取消を求めるという趣旨であると解しても、執達吏の執行処分に対して不服がある場合には、民事訴訟法第五百四十四条の定めるところにより、執達吏の執行行為の訴訟法上の効力に関し執行裁判所に対し訴訟法上の救済を求めるべきであつて、国は執達吏の執行処分を無効としもしくはこれを取り消す何らの権限を有しない。
いずれにしても、この部分も、また不適法として却下せざるを得ない。
二、よつて、その余の点に立ち入つて判断するまでもなく原告の本訴はいずれも不適法であるので、却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 近藤完爾 大和勇美 秋吉稔弘)
(別紙省略)